ADの話(その2)
こんにちは、税理士の折戸です!
前回に引き続いてADをしていた時の話で、今回は昼ドラADの働き方について書いていきます。
私が配属された昼ドラの放送期間はワンクールの3カ月間だったのですが、準備段階から撮影完了まで6カ月ほどスタジオに入り浸る生活が続きました。標準的な昼ドラADの一週間は、概ね以下のようなスケジュールでした。
月曜日:スタジオ撮影
火曜日:スタジオ撮影
水曜日:スタジオ撮影
木曜日:撮影準備(or スタジオ撮影)
金曜日:撮影準備(たまにロケ)
土曜日:撮影準備(たまにロケ)
日曜日:リハーサル
スタジオでの撮影は1週間に3~4日で、朝の9時から夜の22時くらいまで一日ぶっ通しで行われます。スケジュールが押すと夜中の25時くらいまでかかる日もありました。日曜日のリハーサルも3日撮影する分量の段取りを決めるので、朝から晩まで延々と続きます。そのため、リハーサルから水曜日の撮影の間は、スタジオのスタッフルームに布団を敷いて寝泊まりしていました。
ドラマの撮影はチームプレイで、ADや監督など制作チームだけでなく、役者さん、カメラマンさん、照明さん、音声さん、衣装さん、美術さんなど、多いときは100人近い人間が動きます。その中でADの仕事は全体のチームがスムーズに動くための潤滑油のようなものでした。ADにもファースト、セカンド、サード、フォースと野球の守備位置のような役割がありました。ファーストは現場で役者さんに指示を出す役目。セカンドは役者さんの衣装とエキストラ担当。サードは小道具担当。フォースは雑務全般でした。
私は当然ながら一番下っ端のフォースでした。仕事としては、役者さんがスケジュール通りに動いているかチェックする、役者さんが控室に呼びに行く、撮影スタート時にカチンコをカメラの前に出す、画面に時計が映った時に時間経過に矛盾が起きないようチェックする、カメラさん&照明さんが画面を決められるように役者さんの代わりに立つ、画面に映らない場所に印をつける(バミ)、重いものを運ぶ、みんなに弁当を配る、現場でとにかく声を出す、といった内容でした。とにかく撮影の内容と段取りを頭に入れて、スケジュールが滞りなく進むようにする仕事で、朝から晩まで走り回って大声を出していたような気がします。
(バミり。映りこむと怒られるのでカメリハの映像で入念にチェック)
(バミのストック。いつでもバミれるように準備。ズボンは常に縞模様)
(カチンコ。編集しやすいようシーンとテイクを書いてうつしておく。スタジオではカチカチしません。)
新人には、撮影の内容と段取りを頭に入れるのがとにかく大変でした。その日の撮影される部分がどんな話で、誰がどのように動き、どんな服を着ていて、どんな小道具が必要か、ということを可能な限り記憶するのです。3日間、朝から晩まで続く撮影の中、睡眠時間も足りていない状況で、膨大な情報をロジカルに整理して現場で人や物を動かすという、頭脳労働と肉体労働の合わせ技のようなスキルが求められていたのだなと思います。
スタジオ撮影の日は、撮影前の準備や片付けなどもあり、睡眠時間は5時間とれれば良い方でした。朝起きると、トイレと食事以外は基本的にずっと働いており、夜中に撮影が終わるころには意識が朦朧としていました。撮影後は、もうボロボロに疲れて一刻も早く寝たいのですが、スタッフルームに戻ると先輩スタッフと飲み会が始まり、睡眠時間を削りつつ毎日打ち上げをしていました。
撮影がない日は、新しく脚本家さんから出来上がってきた脚本を渡されて、脚本に書いてある小道具の準備や調べ物などをしていました。監督がどうしても画面に出したいと言うので、神田の古本屋に少年マガジンを買いに行ったことや、当時の教科書を国会図書館に探しにいってコピーをとなる、といった作業を行った記憶があります。
昼ドラの仕事をしていた6カ月間で、完全に仕事がオフの日は月に1日あるかないかでした。あのイーロン・マスクは1週間で100時間働く男らしいのですが、私も昼ドラのADの頃はその位働いていたと思います。仕事自体は毎日お祭りのようで楽しかったのですが、半年間でプライベートの友人とはかなり疎遠になってしまいました。
私が就職した制作会社には残業という制度はなく(今はわかりませんが…)、それだけ働いても月収は額面16万円でした。週100時間が4週間で400時間。時給換算するとピッタリ400円です。最低賃金以下の恐ろしくブラックな職場でした。他の制作会社で働いている人に聞いても似たようなものだったので、業界全体が下で働く人にお金が流れない仕組みになっているのでしょう。現在では、ネット番組や動画配信サービスなど、テレビ以外にも映像制作会社の業務は増えているので、現場で働く方々がちゃんと儲かる仕組みになっているといいのですが。
ADしていた頃に比べたら、現在の税理士の仕事は天国のように感じてしまうときがありますが、天国でダラダラと堕落せずに、緊張感を持って日々業務に邁進したいと思います。